7.睦vs涼 …と樹

(鹿児島弁)「ばけすんなよ!」
(熊本弁)「ぬすくんなよ!」

「ど、ど、ど、どうしたの!? 2人とも!」
「言葉の意味は分かりませんが2人の態度から、いや、精霊のお告げによりますと、どうやらケンカをしているようですね。」
ちなみに「ばけすんな」は「バカにするな!」、「ぬすくんな」は「調子にのるなよ!」的な意味だ。
両方とも汚い言葉使いで、熊本でも鹿児島でも通常、女子は使わない。
2年生同士、ガチのケンカのようだ。
こういう場合、大変なのはどちらかというと周りの人物である。

「あわわわ…どうしよう、みっちゃん?」
「いっちゃん、あなたが習っている空手はこういう時の為にあるのでは?さぁ、カラティー・チョップの出番です!」
「ぼくが2人に敵うわけないでしょ!ぼく、万年白帯なんだから!」
「いっちゃんの空手は、畳水練なのですね…本当に残念です。」
ちなみに畳水練とは「畳の上で水泳の練習をする」という意味合いで、要するに役立たずということだ。
「…そこまで言われたら…ぼくだって、やるときはやるんだ~!!」
勢いよく2人のケンカへ割って入る樹。
「いっちゃん、グルグルパンチは武道をかじった人はやってはいけない必殺技では…?」

「あれ?いつきさん、何をされてるんですか?」
「いつき、こんなところで転がってちゃ邪魔!」
「何がどうなると、こうなるのでしょう?さすが、いっちゃんです。」

睦と涼の仲裁に飛び込んだ樹だったが、何故か緊縛状態で床に転がされていた。
「2人とも、ケンカは良くないです…。あと、言葉分かんないです…。」
己の力不足を まざまざと見せつけられた樹だったが、結果的にケンカを収めることに成功した樹の心は、哀しさの中に満足感もあった。
が…
「いっちゃん…ダッサ!」
未殊のトドメに樹は涙した。
しかし両手が使えない樹は、頬伝う涙を拭う術を持たなかった。