6.回想 ~樹と未殊の入部~

「みっちゃん、ぼくのいとこのねぇちゃんが入ってる倶楽部に、一緒に入部しようよ!」

「わたくしめでございますか?私は授業が終わったら、大事な目的がございますので、断固拒否させていただく所存でございます。」


「え~、つれないなぁ。そんなに大事な用事があるの?」

「ええ、夕焼けニャンニャンとレッツゴーヤングを見なければなりませんの。」

 



「…それ、まだ日本の経済バブルが膨らみ始めたくらいの時代の番組じゃない?」

「ええ、録画してあるTVショーをリアルタイムの時間に見るのが、わたくしめの唯一と言って良い生き甲斐ですの。」

「録画ならいつでもいいじゃん!涼ねぇから奇数だと拘束する側とされる側の組ができないから、入部したいならあと一人連れて来いっていわれてるんだよぉ~!みっちゃんが必要なんだよぉ!」

「奇数は神様の数字でありんすからね。柏手も2回打つのは人間の数字だからでありんす…って、わっちである必然性はないでありんしょう?他を当たっておくんなまし!」

 


「言葉遣いがメチャメチャになってるよ!…動揺してるな!?心揺らいじゃってるな!?」

「そ、そんなことはござりんせん!ちょっと花魁の魂が乗り移ってきただけで…」

「にひひ!拘束、緊縛、いっぱいできるのになぁ~!普段は部員募集してない倶楽部なんだけどなぁ~!入りたいって人、いっぱいいるらしいんだけどなぁ~!でも、ぼくはみっちゃんと入りたいんだよ!」

「…拘束という言葉にはなにか魔力が宿っている気がしてなりません。このわたくしめともあろうものが…」

いつも感情が読めない未殊も、なんのことはない拘束好きであると樹は悟った。


が、「ぼくはみっちゃんと入りたいんだよ!」という言葉が最後のドドメとなったことには、言った樹、言われた未殊、ともに気付いていなかった。

計算できない樹、友情に気付けない未殊、それぞれ頭脳的、情感的、実に残念な2人だが、それが2人の仲の良い理由なのかもしれない。


しおらしくうつむき、小さくコクリと首を縦に振る未殊を見て、樹は元気よく言った。


「それじゃあ、行こうじゃないか!『囚われ倶楽部』へ!囚えに!囚われに!」

「…いっちゃんの勢いは天下一品ですね…私はどこの誰だか知らない人たちに、何をされるか分からないのに、意気揚々と向かおうとするいっちゃんが不思議生物に見えます。」

こうして樹と未殊の二人は囚われ倶楽部の門を叩いたのであった。

2020年07月06日