3.電波娘

「カイザード、エルザード…」

「みっちゃん、何をブツブツ言ってるの?」

昼休み、樹が同じクラスの未殊に問いかけた。

「詠唱…」

「えいしょう?」

「そう、呪文の詠唱。ちょっと地獄の門を開いて煉獄の世界を覗いてみようかと思って…あ、でも気を付けて!こちらから覗くということは、あちらからもこちらのことを…」

「…そうなんだ!何を言っているのかサッパリだけど、とりあえず何か食べに学食行こっ!ぼく、お腹ペコペコ!」

「そうですね、あたしたちが生きる為には他の生命を奪い、煮て焼いて咀嚼&嚥下しなければなりませんものね。さぁ参りましょう、生命の宴へ!」

「うん!少し食欲が失せたけど、とりあえず学食へレッツ・ゴーだ!」

 



未殊には友達が少ない。
と、いうよりも樹以外友達がいない。
裏表のない性格で友人も多い樹が、何故この電波娘(未殊)を避けないどころか積極的に接触を持つのか、クラスメートの誰にも分からない。

だが、樹は他の子から避けれられる未殊と一緒にいるのが苦痛とは思わないし、ともすると言動が暴走しがちな自分のブレーキ役に未殊がなってくれている様な気がしていた。
また、感情を表に出し過ぎる自分に対して、何を考えているか分からないが不機嫌な様子を一度としても他人に見せたことがない未殊を、樹は少し尊敬していた。

「みっちゃん、今日は何食べる?ぼく、カツカレーにしようと思ってるんだけど!?」

「いっちゃんは、カレーが好きだね。昨日は唐揚げカレー食べてたよね?」

「ふっふっふ!カレーというより、らっきょうが好きなんだ!で、らっきょうに一番合うのがカレーなんだ!」

「そりゃ、盲点を突かれた!突かれたのが秘孔だったら『たわば!』って言って死んでたわ!」

「相変わらず、みっちゃんの言うことはイミフだなぁ…」

「そうですか。北斗の拳ネタは、もう若者には通じませんのね。では、ドッジ弾平バージョンで…」

「少し聞いてみたい気もするけど、それはともかく何食べるか決めてよ!そして生命の宴だったっけ?始めようよ!お腹ペコペコだよ!」

「…カツカレー。らっきょう抜きで。」

「ぼくに合わせるとは、愛い奴(ういやつ)め!でも、らっきょうは抜かないで注文して、らっきょうぼくにちょうだい!」

「…3回まわって、ワンは?」

元気よく3回まわって『ワン』と鳴いた樹はらっきょう2人分を見事手に入れ、鼻の穴が拡がる程興奮して喜びの表情をみせた。

2020年06月28日