1.とある授業風景

「ちょっと、樹(いつき)!そこは、もぅちょっとキツくしないと少し動こうとしただけでホドけちゃうよ!」

今日のカリキュラムは麻縄を使った緊縛実習。
2年生の涼と1年生の樹ペアは、受け手の涼、縛り手の樹が基本の高手小手縛りの練習に励んでいた。
下級生の樹は慣れない手つきで麻縄を、縛られながらも上から目線の上級生、涼からダメ出しを受けていた。

「でも涼ねぇ、ぼくまだあんまりテンションの張り方がよくわかんないんだよ…」

「コラ!樹!授業中は『涼ねぇ』って呼んじゃダメだろ!?授業中は先輩!」

「は~い、センパイ。縛ってるのぼくなのに、涼ね…センパイ強過ぎ!」

「ふっふ~ん♪こんなユルユルな縛りじゃ、ボクの体も心も縛れませんよ~だ!!」

 

 

涼と樹はいとこで、歳が近いこともあって幼馴染的な仲の良さだった。

専門学校「ボンド」は、講師はいるものの先輩が講師役を務めることも少なくない。
また、受け手志望の者も縛り手志望の者も、お互いの気持ちや感覚を学ぶため、どちらの経験も積ませるのが教育方針。


本来受け手志望の樹は1年生ということもあり、特に縛り手の実習が苦手だった。


「未殊(みこと)ちゃん、あなたは少しキツ過ぎです!あと、縄の位置を神経からずらさないと受け手が麻痺をおこしますよ!そもそも緊縛とは、相手を傷つけずに身動きを封じるところに意味があってですね、相手を想いやる心が大切で、そもそも動けなくするだけなら…」

「睦(むつみ)先輩、少々の麻痺は受け手の華です。緊縛された証と誇りです。」

「ちょっと、そんな危険思想…、あっ、だから力任せに締め上げるのではなく…涼さ~ん、た~すけ~て~!」

もう一つのペア、睦と未殊ペアも多事多難の様相を呈していた。

 

 

2020年06月26日